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2019 BEST ALBUMs について

2019 BEST ALBUMs In 日本語ラップ (Selected by dezao)

 

 

2Dcolvisで2019 BEST SONGs、2019 BEST ALBUMs、2015-2019 BEST ALBUMsを選出させていただきました。

2019 BEST SONGs In 日本語ラップ (Selected by dezao)

2019 BEST ALBUMs In 日本語ラップ (Selected by dezao)

2015-2019 BEST ALBUMs In 日本語ラップ (Selected by dezao

ここでは2019 BEST ALBUMsについて詳しく書きます。

 

 

#01:梅田サイファー『トラボルタカスタム』

 

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 思えば快進撃は新年早々に始まっていた。1月3日に開催されたHOLE EARTH DRIVEというイベントで「マジでハイ」が初披露された際の"これはとてつもないことが起こるかもしれない...!"という予感は的中し、MVは驚異的な再生回数を記録した。また3rdアルバム『Never Get Old』は個性豊かなメンツがクルーの復権を懸け、それぞれのスタイルで本気のヴァースを残した意欲作だったが、ファンとしてはこのアルバムにはまだ重要なピースが欠けていると感じていた。それは他でもないテークエムの存在であった。だからこそ今作の表題曲「トラボルタカスタム」のMVを初めて見たときの高揚感は半端ではなく、今年は梅田サイファーの年だと確信した。

 そんな中リリースされた本作は極限まで高まった期待をゆうに超えてくる珠玉の一枚だった。8人全員のラップのポテンシャルがこれ以上ないほど高いレベルで結実していて、どこを切り取っても素晴らしいため語り始めるとキリがないが、特筆すべきはやはり今作で完全復帰を果たしたテークエム。彼の、曲の本質を誰よりも理解した上で曲のトーンやテーマによって声色とフロウを自在に使い分けるスタイルは各曲の魅力を数倍も増幅させている。5月にソロライブを見ることができたのが、そこで披露された新曲がまた観客の度肝を抜くもので、2020年は梅田サイファーとしてだけでなく、ソロのラッパーとしての活動にも期待したい。

 6曲31分のEPでありながらラップの楽しさ、カッコよさ、気持ちよさ、熱さ、面白さ、優しさ、その全てがギュッと詰まったフルアルバムと遜色がないほどの密度と充実度を誇る本作が今年のベスト。

 

 

#02:VaVa『VVORLD』

 

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 昨年リリースした3枚のEPで期待値が上がりまくっていたVaVaの2ndアルバムだが、いざ聴いてみると内面に抱えていたネガティブな感情やオタク的な趣味への愛情といった自らのカッコ悪い部分をとことんさらけ出し、とびきりポップにチャーミングに、そしてエモーショナルに昇華してみせた大傑作だった。VaVaと好きな分野が一致するわけではないが、同じようにオタク趣味を抱えている人間として共感する部分は多いし、曲を通して以前から好きだったアーティストの内面に触れることができたという点でも自分にとって非常に大切な作品になった。また、彼自身がラッパーとして活躍するようになってからは意外と言及される機会が少ない気がするが、ビートメイカーとしての実力と音楽性の幅広さにも改めて驚かされた。

 ダークで無機質な印象があった1stとは180度雰囲気の違う作品であるにも関わらず、全く抵抗なく受け入れられたのは昨年リリースした3枚のEPで少しずつ収録曲を小出しにしていたためであり、どこまで計画的だったかは不明だが戦略としても見事だと感じた。

 

 

#03:OZworld a.k.a. R'kuma『OZWORLD』

 

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 2015年頃から沖縄の若手ラッパーとして注目を集め高校生ラップ選手権での活躍も相まってラップには定評があったわけだが、そういった前知識は吹き飛ぶほどのインパクトがこのアルバムにはあった。勝因は何と言ってもHowlin' Bearとの出会い。OZworldのラップとHowlin' Bearのビートの相性がとにかく良く、お互いのポテンシャルを最大限まで引き出している。どの曲も最高にグルーヴィーで、ただ単にビートにラップが乗ったものというレベルを遥かに超え、新しい地平に到達している。8曲目まではアルバムの流れがスムーズで世界観の構築も見事。

 惜しむらくは9曲目から11曲目までがHowlin' Bearがプロデュースした曲ではないため、せっかく築き上げてきた世界観がここで崩れてしまうこと。どの曲も単体では良いのだが、8曲目までが完璧だっただけに何度聴いてもテンションが下がってしまう。また、その流れのままラストに向かってしまうため13曲目「NINOKUNI feat. 唾奇」の名曲っぷりもいまいち活かしきれてないように感じられる点も非常にもったいない。全体としてはあと一歩で名盤といったところだが、1stアルバムとしては十分すぎるほどの傑作。

  

 

#04:Karavi Roushi『清澄黒河』

 

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 このアルバムのリリースが発表され、Aquadubが全曲のプロデュースを手掛けるという情報を聞いた時点では、同じくAquadubが全曲をプロデュースしKaravi Roushiも客演で参加していたNERO IMAIの1stアルバム『RETURN OF ACID KING』のようなドラッギーでアッパーな作風になるものとばかり思っていたが、今作を初めて聴いたときにその期待は裏切られた。もっと言えば軽く落胆した。このアルバムを覆うのはどちらかと言うとダウナーで、ひたすらに生温かい雰囲気だった。しかし、この落胆を抱えながら2周、3周と繰り返し再生するうちにこのアルバムの持つ生温かさ、不可解で掴みどころのないラップと終始同じ温度感を崩さないトラックがクセになり、みるみる中毒になった。一聴では魅力が分かりにくい取っ付きづらさやニートtokyoでの爆弾発言などに惑わされずどっぷり浸かってほしい一作。

 

 

#05:AFRO PARKER『Which Date Suites Best?』

 

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 自分の中では今年一番のサプライズ。2ndアルバム『LIFE』の収録曲をYouTubeで視聴したときは、ラップの垢抜けさにどうしてもハマれずアルバムはスルーしていた。しかし2年半後にリリースされたこのEPにおける進化にはかなり驚いた。より洗練されたバンドサウンドと、垢抜けた印象はありつつもボンクラ感の強く残る2人のラップがいい塩梅でマッチしていて非常に耳馴染が良い。曲ごとのテーマが明確でサウンドアプローチにも個性があるため一曲一曲が魅力的に立っている上に、EP全体としても一貫性があるという理想的なバランスに仕上がっている。

 特に、最後に収録されている友人の結婚を祝う「Buddy」が本当に素晴らしい。前半は軽口やジョークを交えて茶化しつつも後半に向けて徐々に感情を高めていく構成が上手く、"不思議なんだけど なぜか分かんないよでも 口をついて出たのは おめでとうより先にありがとう"という普通なら絶対にクサくなってしまうようなラインもストレートに響く。素敵なウエディングソングとしてもっと広まってほしい一曲。

 

 

#06:踊Foot Works『GOKOH』

 

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 2017年の1st EP『ODD FOOT WORKS』リリースを皮切りに、安易なカテゴライズを拒む独自の進化を遂げてきた踊Foot Worksの2ndアルバム。

 緩急自在に様々なフロウを使いこなすラップスキルと抜群のメロディーセンスを持つpecoriのボーカルと、生音を絶妙に活かしつつビートミュージック的なグルーヴを併せ持つトラックが複雑に絡み合って生まれる音楽は、決して難解になったりリスナーを置いてけぼりにすることもなく紛れもなくポップなのがまた凄い。ヒップホップ、ロック、R&B、ファンクなど色々なジャンルのフレーバーを吸収しつつ、そのジャンルに収まるのではなくあくまで"踊Foot Worksの音楽"として完成させるスタンスにはこのバンドならではの自由さを感じる。

 

 

#07:ILL SWAG GAGA『PEDIGREE』

 

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 関西を中心に全国の骨のあるラッパーが多数参加した「独白Remix」のムーブメント。総勢94人がTwitter上で渾身のラップを披露し合った中で、個人的に一番だったのがILL SWAG GAGAのリミックスだった。64小節という企画のルールすら無視し、イントロからアウトロまで詰め込まれた熱すぎるヴァースにはかなりの衝撃を受けた。

 待望の1stアルバムとなる今作では時に痺れ、時に笑い、時に困惑し、時に胸が熱くなる類を見ないオリジナルな魅力溢れるラップが存分に堪能できる。正確に言い表すことはまだ到底出来そうにないが、ラップの技術的な巧さやリリックの完成度などの物差しだけでは決して測りきれない"何か"が確かにある。その"何か"の正体を知りたくてまたこのアルバムを再生するのである。

 

 

#08:Ganger『VISTA

 

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 昨年リリースしたEP『Naghol』でジャンルをクロスオーバーした独自のスタイルを知らしめたGangerの1stフルアルバム。今作では将軍の予測不能なフロウ、MC林太郎のタイトにキメる二枚目なラップが進化したことに加え、様々なジャンルの音楽を濃縮して煮詰めたようなRATLAPのビートが加勢したことで純音楽的な快感がさらに増している。特に2曲目「BATISTA BOMB」は3人の化学反応が最良の形で結実した一曲で、音楽の持つ野蛮で原始的なエネルギーを思い起こされるような爆発力がある。

 

#09:BSC『JAPINO』

 

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 今年のKANDYTOWNはリリースラッシュの一年だったと言える。クルーとしてはEPとアルバムを一作ずつ、Neetz、Gottz、IO、KEIJU、KIKUMARUがそれぞれソロ作をリリースした。正直に言えばその中でも本作に対する期待値はかなり低かったが、これがなかなかの傑作で一番繰り返し聴いている。クルーや他のメンバーがが意欲的にトレンドを消化してスタイルを変化させていく一方で、あえて90sのムードが色濃いオーセンティックなビートを選ぶスタンスには拘りが垣間見える。またクリスチャンである彼ならではの優しい目線に満ちた曲が続く後半は特に素晴らしく、クルーの精神面を支えるアニキ的な存在だというのも納得の包容力を感じる。

 

 

#10:SALU『GIFTED』

 

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 近年の幅広い活躍、特に客演仕事での外さなさは目を見張るものがあったが、ソロアルバムとしては久々の当たり。自らのバックグラウンドを振り返り、ラッパーとしても一人の人間としても現在の自分が置かれている状況とじっくり向き合った上で吐き出されるリリックには、あくまでキャッチーさに重きを置いていた前2作とは異なり聴き終わった後にずっしりとした後味が残る。「生と死」のテーマが全編に散りばめられているためともすれば暗くなりそうなところを、持ち前の華のある歌声とポップセンスで重くなり過ぎないバランスで最後まで聴かせるあたりも流石の一言。ビジネス的な要請から収録せざるを得なかったのか、10曲目の「GOOD VIBES ONLY」がちょっと軽すぎて浮いている気もするが、そのマイナスを考慮しても十分に満足できる傑作。

 

 

#11:PETZ『COSMOS』

 

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 今までも国内に留まらないグローバルな活動で注目を集めてきたPETZの待望のソロ作は、同じくYENTOWNからリリースされたAwichの『8』、kZmの『DIMENSION』に続きラッパーとしてのポテンシャルが遺憾なく発揮された高品質な1stアルバムになっている。Chaki Zuluがトータルプロデューサーを務めていることもあって一枚としての完成度は言わずもがな、海外のプロデューサーを多く起用しているためビートも正しく世界基準のクオリティ。そしてそれに完璧に応えるPETZのラップも柔軟ながら中毒性があり、絶妙な相乗効果を生んでいる。間違いなく2019年のヒップホップを代表する作品の一つ。

 

 

#12:dodo『importance』

 

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 一時期表舞台からは姿を消していたが、2017年ごろから地道にシングルをリリースしリスナー層を拡大し続けてきたdodoが本格的なブレイクの直前にリリースした1stアルバム。後に発表し評判を呼んた「nothin」や「im」と比較するとより分かりやすいが、このアルバムを覆うのは曇りがかったムード。全体的にネガティブな感情を綴ったリリックは多いものの、メランコリックなビートと随所に散りばめられたユーモラスな言葉選びが絶妙なため、不思議なキャッチーさやチャーミングさがあり何度も聴きたくなる中毒性がある。

 シングルのリリースが活動の中心でアルバムというフォーマットに対するこだわりが強くないようにも思えるが、dodoの心境にどのような変化が訪れているかじっくり確かめる意味でもまとまった形でまた聴いてみたい。

 

 

#13:WILYWNKA『PAUSE』

 

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 昨年リリースされた1stアルバム『SACULA』はラップの水準は高いものの曲としていささかキャッチーさに欠けるものが多い印象があったが、それから一年足らずで届けられたこの2ndアルバムで一気にWILIWNKAのアーティストとしての才覚が花開いた。ビート選びが抜群に良くなったこと、多くの客演参加やライブ経験のおかげか上手い具合にラップの肩の力が抜けたこと、旬の客演アーティストをバランスよく配置したことが功を奏して非常に風通しの良いアルバムに仕上がっている。同世代のラッパーの中では経験豊富ながらまだまだ若い彼がこの先どんな音楽を聴かせてくれるのかこれからも楽しみだ。

 

 

#14:MEGA-G『Re:BOOT』

 

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    MEGA-Gの実に6年ぶりとなるソロアルバムは腕の確かなプロデューサー陣によるブーンバップを中心とした上質なビートに、ライミングで生まれるグルーヴと練り上げられたリリックで聴かせるラップが存分に堪能できるアルバム。古くからのリスナーの期待にも十二分に応える内容でありながら、前作からの6年の間に自分やシーンに起きた変化を曲に取り入れ、あらゆる面でしっかりアップデートしているのには本当に頭が下がる。キャリアの長いラッパーの新作として文句の付けようがない一枚。

 

 

#15:umenonaka (ex.Fuckin’G)『SOURCE(CD版)』

 

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 今年最大のダークホース。RepYourSelfは次世代の東京のシーンを担うクルーとしてチェックしていたが、umenonakaのラップに注目することがなかった自分に呆れるほどこの作品にはやられた。リリース当初に本人が"ヤンキー映画のような作品"といった旨のツイートをしていたことが強く印象に残っているのだが、正にそういった魅力があり、荒々しさのあるフロウとその中に光る繊細なリリシズムや時折垣間見えるロマンティックな一面にたまらなく胸が熱くなる。また、後半の4曲にどことなく漂う儚さもヤンキー映画的であり、それがこのEPをまた一段と特別なものにしている。

 配信ではCD版に収録されている11曲のうち5曲がピックアップされているが、残りの4曲(あと2曲はインスト)も聴き逃してしまうのはあまりにも惜しい曲ばかりなので是非CDを手に取ってみてほしい。